ならそれでいいです

そろそろ優勝したい

檻越しの君君私私

 とにもかくにも、動物園に行かねばならぬ。

 それが私が20日連続となる自主休暇の取得を決意した、6月23日金曜日午前9時に去来した思いであった。来月の金銭的な苦労については現状考慮していない。恐らく来月の私がなんとかしてくれることだろう。

 

 動物園に行くとなると、自ずと選択肢は井の頭自然文化園一つに絞られてくる。理由は単純で、徒歩圏内にあるわいわいパーク(私の脳内で動物園と同義の単語である)はここ一ヶ所しかなく、電車やバスに乗るほどの気力はないからである。ついでに言っておくと、私の駆使できる唯一の知的移動手段だった自転車は先月盗まれている。犯人は早く名乗り出るように。

 特にパンダが見たいだとか、自然に近い状態で暮らしている動物たちを至近距離で見たいだとか、そういう欲求はなかったので、上野や富士にまで足を運ぶ必要は無いだろう。

 つまりは「動物園」という器さえあれば、それで良かったのだ。それが動物たちの可愛さから生じる癒しを求めてのものなのか、あのなんともいえない臭いと間延びしきった時間の支配する空間を求めてなのか、あるいはそれ以外の何かが私を誘っているのかについては、私自身いまひとつ判然としないところではあったのだが。

 

 「入場料は400円です。ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ」

 受付のお姉さんに見送られて門をくぐったとき、時計は11時を少し回ったところだった。朝食とシャワーと身支度。盆暗の行動速度から考えればかなりの好タイムでのお出かけと言えるだろう。

 

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 入園早々にアヒルがバテていたので、私は思わず低い位置でグッとこぶしを握ってしまっていた。これこれ、これだよ。こういった動物たちの「人間の都合など知るか」と言わんばかりのサービス精神のなさが、私は好きなのだ。

 正直なことを言ってしまえば、井の頭自然文化園は動物園としてはかなりショボい。設備自体もかなり古くなってきているし、広さや飼育されている動物の数もかなり控えめだ。井の頭公園での散歩や吉祥寺での買い物のついでに寄っていく、そんな使われ方が多いようにも思う。

 ただ、少なくとも私にとってはそんなことは瑕疵とは言えない。そういったショボさが肩肘張らずに楽しめる、ある種の居心地の良さに繋がっているように思えるからだ。私は暫しバテアヒルを鑑賞したのち、まるでペイヴメントを愛聴するかのような心持ちで、園内をズンズン進んでいった。

 

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 豚がここまで黒いとは思っていなかった。これが所謂黒豚というやつなのだろうか。飼育員さんに聞いておけば良かった。画質が著しく悪いのは、無理やりズームして撮ったからである。

 

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 ここで私をこの日唯一にして最大の後悔が襲った。「モルモットふれあいコーナー」に間に合わなかったのだ。

 私がモルモットの園へ到着したその瞬間に「ふれあいコーナー終了の時刻です。モルモットたちをかごに戻してください」とアナウンスが鳴り響いた。私は自らの迂闊さを恥じる他なかった。催しもののタイムスケジュールも調べずに動物園に行くとは、これでは素人も同じではないか。

 凡愚たる私にはふらつく両足をなんとか動かしながら、一仕事終えて厩舎で休息をとるモルモットたちを撮影するのが精一杯だった。これ、なんかキモイ虫が蠢いてるみたいで背筋ゾワッとなりません?

 

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 にしても、この動物園、どの動物も皆一様にバテている。

 確かにここ数日と比べると気温が高かったのは事実だ。日差しもかなり強い。私もかなり念入りに日焼け止めを塗って外出している(ヴァンパイアなので強い日光を浴びると肌が被れる)。

 ただ、それを勘定に入れてもあまりにバテすぎではないだろうか。加えて、こうして写真に収められている動物たちはまだマシなほうで、なんならかなりの動物が厩舎から出てこず、我々入場客の前に姿を現すことはなかったのである。彼らもまた、バテていたであろうことは想像に難くない。

 

 しかし、それで良いのである。先程も述べたが「人間の都合など知るか」の精神だ。動物たちの全く媚びない精神に感銘を受けた私は、同時に自らの思うままに生きて良いのだと背中を押されたようにも感じていた。目の前では給餌を終えた豚が、自分で掘った穴に身を横たえシエスタを貪ろうとしていた。嗚呼、野生の欲求よ万歳。

 さあ、家に帰ろう。私は必要な学びを得た。もうここに長居することもない(というかマジで動物が出てこないからすぐ見終わってしまった)。帰って、そこから先の営みの中で、野生の先達から得た本日の実感を生かし、より上質な魂を目指していこう。ライフゴーズオン。そしてまた私は、俺は、僕は、君は、あなたは、彼は、彼女は、市井の檻の中へ……。

 梶原笙に関係するすべての皆様へ。本日より私は、より一層「他人の都合など知るか」「バイトのシフトなど知るか」「借りた金など返すか」の精神で人間としての活動を行っていきますので、どうかご了承頂きたいと思います。かしこ。

 

 

 この日の夜に夏椰と会ったんですが、「動物園誰と行ったの?(デートでしょ?という言外の意味を含む)」と聞かれたので、正直に「いや一人だよ」と答えたら普通に引かれました。

 

 

『このたびはとんだことで』を読みました。桜庭一樹の短編集です。

短編集なんですけど、統一性に関しては無さそうで有って、有りそうで無いみたいな感じでしたね。バリエーションを楽しむ肌の一冊なのかなという印象です。

個人的には『モコ&猫』がお気に入り。この人の文章はかなり砕けた語り口ですが、それがこういう過ぎ去りし日々を懐かしむような内容だと、その心情がより赤裸々に語られているように感じてグッときちゃいますね。

他の作品にも共通していることですが、「美と醜」についての描写の素晴らしさは桜庭一樹作品の大きな魅力ですね。作者の様々な作風を楽しめつつ、「らしさ」もしっかりあるという、ファンとしては大満足な一冊でした。

 

 

だいたいこんな感じでーす。