ならそれでいいです

そろそろ優勝したい

戦車のいない九月が来る

 先週、戦車と散歩に出たのですが、キャタピラ部からきゅららきゅららと、今まで聞いたことのないような音が鳴っていて、あれおかしいなと思い、油を差そうと考えたものの、あいにく家には質のよいものがなく(食卓の塩は岩塩なのですけれど?)、散歩の道順を変えて、『デレレッポ・チチパ』に行くことにしました。

 その日の朝食を反芻しながら歩くことが、我々の散歩の流儀であり(あなたの宗教の神様はあなたです)、その日はジャーマンポテトとカプレーゼで、それはドイツで作られて、イタリアで三角形になった(お湯につけたら戻りました)、そんな戦車に対しての私なりの気遣いです。でした。変形。

  『デレレッポ・チチパ』は吉祥寺駅前にある賓片蕗(ひんぴらふき)段落に身を横たえて埋没し、侵入した先にある戦車店(と私の視点からは解釈できる)で、そんな面倒なことをしなくとも、駱駝に乗ってくればすぐ着く(ふたこぶ駱駝のお客様限定)のですが、私は駱駝を持っておらず(戦車は持っていますが、意外なことに戦車は駱駝ではない。昭和は良かった)、そのためこのようになります。

 

 到着は到着で、出発は出発(今年の恵方はキス・キス・キス)ですが、問題はその道程にあり、戦車のキャタピラは井の頭公園で、散歩中の人類を、766人轢き殺し(目視した範囲)、多方面から遺憾の意が、出たり入ったりしたので、私も出られたり入られたりしたということになります(違ったら教えてください)。

 他にも100匹の犬(101匹目がワンちゃんです)といくつかの八百比丘尼も轢殺したのですが、鳩、鳩、鳩は無敵なので、どうにもなりませんでした(鳩はただの平和の象徴ですが、鳩、鳩、鳩となると無敵なので無理です。戦車は所詮戦車)。

 あとは猫、のんきに道端横たわる猫のまつ毛、いやその生え際の実質的には頬の、その猫の額ほどの頬(額とは?頬とは?)の、入り組んだ毛に住み着くノミの、その身体にわらわらと生えた何本かの足の、生み出し生み出される健気なジャンプ力が怖い(怖いので戦車に無理を言って一発撃ってもらうと、あたりはすっかり静かになりました。いつまでもいつまでも静かでした)。

 

 ともかく、避けようのなく=責任もない轢殺の果て、『デレレッポ・チチパ』は今日も存在、その事実に打ち震えながら営業し、店主の(・∀ ・)は初代プレステ時代のFFキャラぐらいのポリゴン度で、にこやかに笑っていました。

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   ↑参考資料(画像は開発中のものです)

 (・∀ ・)は(・∀ ・)であり、( ・∀・)ではないため、その差異に我々は細心の注意を払う必要があり(有史以来、前者はまたんき、後者はモララーと呼ばれていました)、間違うと以降の朝食が「泉こなた」「おがくず」「すあま」の三択のみとなってしまい、「泉こなた」を選ぶとその回数分彼女が家に住み着くことになり、それは延々堆積するのですが、稀にCVが平野綾ではなく、博多大吉声の「泉こなた」が出てくることがあり、そうすると連鎖反応で全て消えます。

「この前渋谷でもこのお店を見かけましたがあれは?」「あれもこれです。『デレレッポ・チチパ』は偏在するので」「支店ということですか?」「違います。偏在しているだけです。偏在店が点々、です」「なるほど」「わかりましたか?」「いいえ全く」「アハハハ・ハハ。偏在店にも是非お越しください、ときどき展示もやってますので。偏在展を」「はあ」「それから『デレレッポ・チチパ』について一冊の本にまとめたものが来月出版されます。いわゆるひとつの……」「偏在典ですか」「コーラです」

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 (・∀ ・)との会話は無益を極め、苛立ちと同時に酷く喉が渇いたので、私はさっさと要件を済ませることにしました(この間ずっとどこかでピチョ、ポチョ、チョピ、と音がしており、最初は雨漏りかなと思ったのですが、あとから確認したら木星から漏れ出てワープした宇宙麦茶でした)。

  私は戦車から異音がすることと、劣っていることと変わっていることは違うということを(・∀ ・)に伝え(概念の話をすると(・∀ ・)は喜び、割引をしてくれるのです)、それを聞いた彼(あるいは彼女、あるいはインターネット)は戦車の全体をじっくりと観察し始めました。

 そうしてしばらくして、彼の口から出た言葉は、私を酷く落胆させるもので、それはつまり戦車の異常は油差し程度では治らず、更に言うとその異常は非常に重篤で、そう遠くないうちに戦車は動かなくなってしまうということであり、私はもちろんそれを信じたくはありませんでしたが、殊戦車に於いて(・∀ ・)以上の目利きなどいませんから、私に出来ることは、静かに、穏やかに、今目の前に突如現れた事実を受け入れること、ただそれだけでした。

 私の落胆を見て、(・∀ ・)は「簡単な点検なので、料金は結構です」と言ってくれましたが、私はそれを受け入れず、半ば叩きつけるように『グイン・サーガ24巻』をレジに置き、(・∀ ・)の「装備していくかい?」の声を無視して、戦車と共に店を出ました(退店時、戦車が出入り口に引っかかり、『デレレッポ・チチパ』の残機は2まで減りましたが、『グイン・サーガ24巻』を支払ったので大丈夫です)。

 

 肩を落として、静かな、本当に静かな井の頭公園を行く私の耳には、たしかに戦車から漏れ出る異音が聞こえていて、それは私をとても悲しくさせましたが、井の頭自然文化園の入場門近くで他の音に遮られてしまいました。

 それは『完全なる高校野球の日』が、「ゾウを殺さないでください」と懇願する声で、しかし『完全なる高校野球の日』は狂っている(そのうえ臭い)ので、誰も耳を貸しませんし、そもそも井の頭自然文化園のゾウは、もういないので、私はなるべく戦車の音にだけ耳を澄ませながら、その脇を通り抜けていきました。

”はな子(はなこ、1947年 - 2016年5月26日)は、東京都武蔵野市井の頭自然文化園で飼育されていたメスのアジアゾウである[1]

第二次大戦後に初めて日本にやって来たゾウであり[2][3]2013年1月に66歳でアジアゾウの国内最高齢記録を更新し、日本で飼育された中で最も長寿のゾウとなった[1][2]。゛

 

 井の頭公園一帯を抜けると、我が家が近づいてくるのですが、それはつまり私と戦車の家で、そして近い将来私だけの家になる(そして戦車の家ではなくなる)ので、私は悲しくなり(もう、なにもかもが悲しい)、立ち止まって泣きました。

 少しして泣き止んだとき、私は戦車から聞こえる音が、かららんかららんと変わっている(前はきゅららきゅららだか、ネリリ・ハララだかでした)ことに気が付き、それはなんだか、戦車の中になにか悪くて固いようなものが、入って、回って、鳴っているかのように思え、骨だ骨骨、骨に違いないと考えました(これ以上に完璧な理論はこの世にはない)。

 その骨は、ふたこぶ駱駝、『完全なる高校野球の日』、(・∀ ・)、ジャーマンポテト、はな子、『グイン・サーガ24巻』、賓片蕗段落、岩塩、井の頭公園、100匹の犬と766人の人類といくつかの八百比丘尼、あるいはこの世の全ての骨の可能性が非常に高いのですが、私は私自身の骨だと良いな、戦車を終わらせるのが私の骨なら幸せだな、と妙に浮かれて、もう何も、悲しくも寂しくもおかしくもありませんでした。

 

 私が死んだらその骨をコックピットに投げ入れて、戦車をお墓にしてください。

 それが、たったひとつの愛なのです。

 

 

 

だいたいこんな感じでーす。